
ミンガスはよく怒れるベーシストと評される。
確かにフォーバス知事の寓話やハイチ人の戦闘の歌など、社会風刺やメッセージ性の強い曲が多い。
またその風貌や喧嘩っ早かったというエピソードなどで余計その印象が強い。
(トロンボーン奏者ジミー・ネッパーはミンガスに殴られ歯を折られたという、管楽器奏者としてマジで気の毒な人だ)
しかしそういった激しい音楽だけではなく、慈愛に満ちた穏やかな音楽も数多く作り出している。

レスター・ヤングに捧げた「Goodbye Pork Pie Hat」
ジェリー・ロールモートンに捧げた「Jelly Roll」
パーカーに捧げた「Reincarnation of a Lovebird」「Bird Call」
妻に捧げた「Celia」
後の妻に捧げた「Sue's Change」
そのどれもがとても美しいメロディを持ち、優しさに満ち溢れた温かい曲である。
きっとミンガスは人一優しい心の持ち主だったのだと思う。
怒りの激しさと愛の穏やかさ。
ミンガスはこの両面を併せ持っているからこそ、
その音楽は多くの人々の心に訴えかけるのだと思う。

ぼくが演奏している対象は愛であり、この地球のどこかでぼくのために生きていてくれた誰かの精神に対してである。
それは遠くの方にいる。一人の女かもしれない。
いやぼくは二度恋におちいったことがあるようだ。
ベースを弾くのに気持ちを集中し、そうした気持ちの中で精神が統一してくると、恋した女の体に触っているような状態になってくる。」
―チャールズ・ミンガス
[『JAZZ LIFE '78年 1月号』
『ミンガス・アット・モンタレー』原文ライナー より]